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y1191 真っ赤っか


とうとう夜這いに移っていたのである。
先輩が伝授していた通り、身をかがめ、こっそり家の裏へまわる。
そして、物音一つしないよう、明子の寝ている裏座の戸ををやっと入れるくらいの隙間で開ける。
島の家の造りは、一番座、二番座があり、必ずと言っていい程その裏に裏座がある。そしてその裏座は又、必ずと言っていいくらい外へ出入り出来る構造になっている。
初めての夜這いで、昭二の胸は高鳴り、破裂しそうである。
しばらく目を暗闇に慣らす為、じっとうずくまっていると、なんと明子は大胆なポーズで寝ている。
その姿を見た瞬間、昭二の頭は真っ赤っか。全ての思考力はすっ飛んでいた。
昭二は夕方森で出会い、今夜自分が夜這いに来る事を予測し、待っていてくれたのではないか、と思われるポーズ、ぶるぶる身震いしながら少しずつ近づいていった。
その時、襖が五センチ程そっと開いたのであるが、人生最高調、絶好調に興奮し捲くっている昭二は、まったく気がつくはずがない。
ふっくらと盛り上がった明子の乳房へ手がかかる瞬間。
予告無し、稲妻なしの突然の落雷!
「こらあー!! 」と親父の怒鳴り声、天井がスピーカーのコーンとなり爆音が部屋中に響き渡ったのだ。
昭二はそれこそ、失神しかねない驚きだが、抜けた腰でも、とにかく逃げた。
隙間にしこたまぶつけたが、抜け出し、東から回って逃げようとすると、親父が先周りし、泥棒、泥棒、と言って、通せんぼ。
身をひる返し、西側から逃げようとすると、今度は母親が、棒を振りかざし、泥棒、泥棒と叫び、はさみ打ちになってしまった。
しからば、石垣をよじ登って逃げようと飛びついたが、酔いがまわっていたのか、すんでのところ、石垣の上で親父にズボンの裾を捕まれてしまった。
ヤモリなら尻尾を切って逃げるが、へばりついたまま、母親はコン棒振りかざし、恐ろしい形相で、事あらば、と一撃態勢、身動き出来ない状態。
後手にねじ上げられ、家の中に引きずり込まれた。
そして両手を後手に、柱に縛りつけられてしまったのだ。
普通なら説教をし、誤れば解き放つのだが、かわいい一人娘を狙ったにっくき男、親父は気がすまない。
夜が明けると、村中の人に「大泥棒を捕まえたから、顔を見てやってくれ」と、振れ回ったのだ。
隣村からも見物に来、秀雄や久雄などまでがドジしやがったなとニタニタ見物、これ程の屈辱は無い、という晒し者。
親が謝り解き放たれたが、昭二は外にも出ずこもりっ切りだ。
自殺しかねない、見るに見かね、次男の昭二は島からこっそり逃げるように出る、勿論行き先もなく着の身着のまま見送る人も無い。
以後の行方は親兄弟、誰一人とて知る人はない。
あれ程明るかった明子は、以来ふさぎ込んでしまった。
中学生の頃はテニスに打ち込み、地区代表として県大会まで出る程の腕前。
みんなの人気者だった。
それがまた親父の誇りだった。
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